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| 「アメリカでの雇用」 〜採用から解雇まで〜 |
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日米の組織の差
アメリカでは従業員からの訴訟問題が多いからこのように注意した方がいいとか、こうすれば訴訟リスクを避けられるという話を耳にします。しかし、どんなに注意していても訴訟問題を完全に防ぎきることはできません。正しいことをやっていたとしても従業員から訴えられるケースはあるのです。むしろ大切なのは、訴訟の危険性に神経質になり過ぎて「これはやってはいけない」というような点ばかりに着眼するのではなく、建設的かつ長期的な視点から、モラルが高く働きやすい職場環境を作り、いい人材を育成することではないでしょうか。このような目標を掲げることにより、会社の生産性、効率性が向上し、結果として訴訟の発生しにくい環境醸成が構築されるのです。
在米日系企業がそのような目標を達成させるためには、単に法律を知っているだけでは十分ではなく、アメリカの文化、社会、ビジネス慣行、アメリカ人の考え方やコミュニケーション方法などを理解することが必要です。私は、日米企業における組織のあり方や従業員の役割を比較するときに、よくアメリカ企業を狩猟民族、日本企業を農耕民族に例えます。
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ピルズベリー・ウィンスロップ・
ショー・ピットマン 法律事務所
パートナー弁護士 秋山 武夫
(Takeo Akiyama)さん |
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政府関連機関、商社、メーカー、銀行など100社以上の在米日系企業及び米国に進出予定の日本企業を担当。商法、会社法、金融、雇用法を主な分野とし、M&A、ジョイントベンチャー、金融を含む数々の取引において、多くの交渉をリードしてきた。日系企業の社外取締役を務める他、企業戦略、経営実務を含む法律問題につき、様々なセミナー並びにシンポジウムで講演を行っている。
【学歴】
LLM: ワシントン大学ロースクール1975年卒業
LLB: 一橋大学法学部1969年卒業
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狩猟社会では、獲物が常に目の前にあるというわけではありません。ですから、いざ獲物が現れたら、リスクを冒してでもその機会を逃しません。このような社会では、リスクをとらないのが最大のリスクと言えるでしょう。狙った獲物を捕まえるのに最適な各種技術や能力を持つメンバーを集めてチームが組成されるので、メンバーを選び、全体の動きを掌握し、采配を振るうリーダーの役目が重要になります。このように、構図としてはチームを管理し、指示を与えるリーダーの下で与えられた個々の責務を全うする専門家集団となります。ですから、ともするとメンバー同士はお互いが具体的に何をしているのかよくわかっていない、また役割分担以外の仕事を頼まれると反発する、といった傾向も出てくるでしょう。また、各メンバーの取り分は、チームにどれだけ貢献したかによって差が出てくるので、そのためには一人一人が強く主張することにもなります。
それに対して日本企業は農耕民族です。必ず巡ってくる季節に合わせ、村が総出で草むしりをし、次に田畑を耕し、そして水を入れるという方法なので、役割分担は分かれておらず、誰が何をやっているかお互いに一目瞭然でわかっています。害虫や台風などのリスクに遭わなければ、秋には必ず収穫があって、それを参加した全員で分け合うのです。このような社会では、たとえ偶然舞い込んできた機会があったとしても、そのために秋の収穫を危うくするようなリスクをとることは許されません。また、各々が自己の権利を主張するとシステム自体が機能しなくなるので、ハーモニーが最重視されます。
アメリカの任意雇用と例外
狩猟社会では、獲物が出てこなければ人を雇う必要がなく、出てきた時に必要な人を雇う、そして獲物をとってしまえばチームは解散し、メンバーを解雇するという仕組みです。これは人手が多ければ生産性があがるので完全雇用がベストという農耕社会の日本とは大きく異なる点です。この狩猟社会であるアメリカを支えているのが、「Employment-at-will」(任意雇用)、つまり、「従業員はいつ辞めてもいい」のと同時に「従業員をいつでも辞めさせてもいい」という雇用原則です。
ただし、任意雇用にもいくつか例外があります。雇用者が契約を締結し、雇用期間を設けている場合、また労働組合員が労働協約という形式の契約で保護されている場合などには、そのコミットメントに拘束されます。また従業員が訴訟を起こしたからといって、その報復として従業員を解雇すると違法になります。
また、法律で禁止された雇用差別があります。従業員はそれぞれ仕事も給料も違いますが、このような取り扱いの違いという意味での差別が禁じられているのではなく、年齢、性別、人種、宗教などの違法な要素に基づく差別が禁止されているという意味です。年齢や性別などの要素とは関係なくその従業員が会社に与えてくれるValueに基づいて雇用上の判断を行うべきなのです。例えば、男性には家族手当を与えたり給料を高くしたりするが、同じタイトルの女性は家族手当てを出さず給料も低いというのは違法です。しかしその女性が育児や家庭の事情で結果的に会社に与えるValueが低いということで、他の男性よりも給料を低くするのは原則として違法にはなりません。この原則論をよく理解して判断するべきです。
雇用に関する注意点
では、具体的に採用時から解雇まで注意すべき点をお話しします。
まずJob Interview(面接)時ですが、面接時の質問は全て、会社側で採用するかどうかの判断に使う目的で行われたものと推定される、というのが大前提です。ですから、例えば、「土曜日出勤できますか?」と聞くことは、その質問相手が毎週土曜日に寺院に行くことを習慣とするユダヤ教信者だった場合、宗教による差別があったとされるケースがあります。それではこの質問は絶対にしてはいけないのかというと、そうではありません。週末勤務が必須である職種で人を募集しているのであれば、もちろん土曜日の出勤が可能かどうかは質問事項として適切です。雇用機会均等委員会(Equal
Employment Opportunity Committee: EEOC)による「してはいけない質問」「してもいい質問」に関するガイドラインがありますが、面接前にただこれを丸暗記するのではなく、何故そのようなルールがあるのか、その理屈を理解すべきでしょう。
次に、採用の時点では、Job Description(職務内容)を明確にすることが大切です。自分は何のために雇われるのか、チームの中で自分の役割は何なのか、職務内容をはっきりさせることによって、チームが効果的に機能することになるのです。
また、職場では風通しの良いコミュニケーションと公平な評価のシステムを確立しておくことが重要です。コミュニケーションのしやすい環境が整っていれば、問題が深刻になる前に芽を摘むことができます。評価についても、各従業員について公平に評価をし、それを本人に開示し、フィードバックの機会を与え、それを記録に残しておくのです。事前のコミュニケーションや必要な記録なしに、例えば遅刻が多すぎるからという理由で突然従業員を解雇すると、従業員側では解雇の理由が分からないため、不当解雇として訴訟を起こされるリスクにつながります。遅刻がいけないならば、そのように謳ってある会社のポリシーを提示して、それを評価にも反映させるべきなのです。そして、一度、二度と遅刻した場合はまずは口頭で注意し、次には書面による注意、それでも状況が続くならば解雇も有り得ると警告を与え、その上で改善が見られないならば解雇するという順を追い、各段階の措置を記録に残しておくべきです。
そして、一番訴訟問題になりやすいのが解雇する時です。法律は採用から解雇するときまで一貫して雇用差別に関する規定が適用されるわけですが、現実的なリスクという点ではやはり解雇するときが一番訴訟になりやすいのです。解雇する場合は理由を明確にするなどの予防策をとっておくことが必要です。
部門を閉鎖する、オフィスをクローズする、など経営上の判断から一度に全員解雇するといった場合、訴訟リスクは低いと言えます。しかし、リストラ対象者を各部門から選ぶ時など、なぜその人が選ばれたのかという点で問題になりやすいのです。自分は高年齢だから辞めさせられた、女性だから辞めさせられたと、従業員との間で争いが起こりがちです。リストラで給与の高い高年齢の人が対象者になるケースも多々ありますが、それは年齢による不当差別だという訴訟問題になることが多いです。
最後に、アメリカでセクシャルハラスメントの訴訟が多いということはご承知のとおりですが、これは先程お話しした法律で禁止されている雇用差別のうち、性による差別の一形態です。性別に関係なくどの従業員も同じ職場環境で働く職場環境を会社側が提供していなければ、会社側の責任となります。
上司が部下に対して代償を求めてセクハラをすると、自動的に会社側の責任になってしまいますが、同僚間の場合は少し異なります。同僚によるセクハラの場合、会社にそれを防ぐシステムがあったかどうかが問題とされます。例えば従業員が会社に報告できるような、苦情申し立てを受け付ける部署または担当者が設定してあったか、そしてそれが機能しているかどうか。そのようなシステムがあって、従業員がそれを利用していれば問題は防げた、しかし従業員が利用しなかったということになれば会社側の責任は減免されます。
日頃から効果的なコンプライアンス・プログラムやトレーニング、モニタリングを含むセクシャル・ハラスメント防止策を実際に効果的に実施し、問題があれば早期に発見し、適切な処置をとっておくという体制がどれだけ重要かおわかりいただけるのではないでしょうか。
会社の生産性、効率性を高め、そして法律問題の起きるリスクを低くするのは、健全な職場を醸成する日頃の努力です。
(2005年10月) |
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