よく、日本にいてアメリカに会社を設立したとか、アメリカに観光しに来たついでに会社を作ったという話を聞きます。アメリカでの会社設立の手続きは簡単な上に、なおかつ、外国人でも、労働ビザを持っていない人でも設立者になれるため、観光客や日本在住者が会社を作れるのです。 ただ、設立手続きを行った後に必要となるFEIN(連邦雇用主番号) を申請する場合、申請者はソーシャルセキュリティ番号保持者である必要があります。設立する本人が持っていない場合は、アメリカ在住の知り合いなどに頼んでやってもらう必要があります。 しかし、会社をただ設立しただけでは「仏をつくって魂を入れず」であり、意味がありません。設立した後、その会社を運営していく必要があります。その際に、労働ビザが必要になってくるのです。 会社を運営する際にも、ビザが要らないケースもあります。それは、会社の設立だけを行いその会社に投資をして、運営を他者に任せる場合です。
■プロフィール 1970年東京大学法学部卒。司法研修所終了後、1972年に弁護士登録。東京で1年間実務を行った後、ワシントン大学ロースクールに入学し、1974年 LL.M.(法学修士)を得る。1976年ニューヨーク州の弁護士資格を取得。日米両国で法律実務の出来る最初の日本人弁護士となる。以来、米国に進出する日本企業の法律問題について助言している。特に買収、合弁事業、ライセンス、戦略的提携、販売提携、不動産取引などの取引法と、会社の設立から解散までの手続きを含めた会社法を専門とする。
設立と投資だけを行い、その会社から全く給料をもらわずに配当だけを受け取ります。つまり日本に居住し、アメリカにはたまに監督に行くということであれば、設立者・投資家であっても労働ビザを取得する必要がありません。 このようなケースの場合は、観光客と同じですので、労働ビザなしに3ヶ月間アメリカに滞在が可能です。3ヶ月以上滞在する場合は、短期出張ビザ(Bビザ)を取得して長期滞在(一回につき6ヶ月までの滞在が可能で、きちんとした理由があれば、その後6ヶ月づつ、2回くらいまでは延長可能)が可能です。ただし長期滞在になると、米国から収入をえていなくとも、米国に納税する義務が発生しうることに留意してください。 またこれは学生や駐在員など、学生ビザや他の会社からのスポンサーの労働ビザですでにアメリカに滞在している人にもあてはまる話で、現在の状況のまま会社の設立・投資だけは行うことができます。 それでは、ビザを取得する必要があるのはどういう場合かといいますと、会社を設立した後、その会社を運営してビジネスを行い、なおかつ自分の給料がその会社から出る場合です。この場合は、投資家ビザ(E2ビザ)または投資家グリーンカードを取得するしかありません。 E2ビザを取得するための条件は、「”Substantial”(十分)な投資」と「本人の経験」になります。この”Substantial”な投資というのは特にいくら以上と基準があるわけではなく、またビジネスの業種によってもそれは異なってきます。例えばレストランをニューヨークで経営するのであれば、運営して従業員を雇うのに十分な投資金額が必要です。昔(10年くらい前)だったら20万ドルでも可能でしたが、今のニューヨークでは、足りないですね。自分と家族を養える程度の投資金額では不十分であり、従業員を雇用してアメリカの経済に貢献しないといけないのです。ただ、それがいくら以上なら十分なのかという明確な基準はありません。 また「本人の経験」という基準も曖昧です。E2ビザを取得するには、本人に「マネージャ」か「スペシャリスト」としての経験が必要なのですが、何年以上という明確な基準はありません。ただ、マネージャとしての数年のキャリアは要求されますし、年齢的にもあまり若くても認められず、例えば26歳の人がマネージャとして申請しても、在日アメリカ大使館あるいは領事館の領事には却下される可能性があります。 もう一つのオプションとして投資家グリーンカードがありますが、この場合は100万ドルの投資が必要です。これだけ投資をすれば、「本人の経験」などの制約もなくグリーンカードが年間1万ケースに配給されます。 労働ビザについては、難しい問題ですので簡単に考えないで下さい。起業する前にきちんとした準備が必要です。会社を設立さえすれば、その会社で働くことによって労働ビザが取得できると考える人もいるようですが、そんなに簡単ではありません。以前、「数十万ドル投資すれば投資家グリーンカードが取得できます。」といって、そのグリーンカード取得代行サービスをやっていた会社がありました。これは、投資家グリーンカードを取得するためには100万ドルは必要なのですが、複数人集まって投資すれば一人当たりの投資金額は数十万ドルで抑えられるという論理でした。しかし、それは移民局によって認められず、そのお金を集めた代行サービスの会社は訴えられています。 また弁護士を選ぶ場合でも、ニューヨークには数多くの弁護士事務所があり、昔は移民ビザ取得にかなりの弁護士費用を請求するようなところもありました。例えば、「数万ドル払えば、労働ビザを取得可能です。」といってお金だけを受け取り、しかし実際には何もやらなかったり、労働ビザを取得できないケースなのに取得できると言って引き受けるところもあるようです。 ビザについては、起業する際に用意周到にして、必ず信頼のおける弁護士にご相談下さい。 (2005年7月)
【協力】 モリソン・フォースター 法律事務所 Tel:(212)468−8028 Web:http://www.mofo.com